日本語は花によって終わりを表す言葉が使い分けられることがあるそうだ。例えば、桜は散り、椿は落ちる。四季折々の中で物語を紡ぐのは人間だけではない。花もまた命を燃やし、燃やし切った時に、それぞれの生き様を見る者の心に刻み込むように最期の姿を見せる。
若い頃は椿があまり好きではなかった。ぼてっとした花で繊細さが感じられなくて、落ちた後の姿はどこか生々しくて不気味に感じた。ところがいつの頃からか、冬の寒い中でも咲く姿が健気に見えてきて、そうなってくると命尽きて落ちた姿も、どこか潔く感じるようになった。なにしろ、花びら1枚1枚が散る桜とは違い、花がそのままの姿でポトンと落ちているのだから。かなり潔い。
そんなことを感じるようになったのも、おそらく自分の人生も半分以上は来ただろうと考え始めてからだ。影があるから光は美しいとか、死を含んでいるからこそ命は輝くとか、そういう矛盾を抱えた相反する二つのものが同居する感じもようやく実感として分かるようになってきた。歳をとることは悪いことばかりではなく、ここまで来たから分かることが日々増えている。
そういえば、桜は散ったら花びらになるけれど、椿は落ちても花のままだ。両者の終わりの姿は全く違う。でも、どちらも僕を惹きつけてやまない。きっと自分らしく命を燃やし切ったものの魅力がそこにあるからだ。さて僕はどうだろう。まだまだやり切っていないことばかりだ。最期に「見事な人生でした！」と誰か一人にで良いから認めてもらえるよう、自分らしく命を燃やし切りたいものだ。
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