
ストリートフォトでタンバールを持ち出す機会は、そう多くないかも知れません。 一般的にはポートレートレンズとして愛されるこのレンズですが、夏の日差しが落ち着き、随分と柔らかくなった秋の光を見ていると、ふとこのレンズを通して街を見たくなります。
Silver Efex Proでモノクロームに変換し、少しだけ粒状感を加えてみる。そうすることで、光の輪郭がより一層、記憶の中の風景に近づくような気がします。
90mmという焦点距離は、スナップには少し長いと感じる人もいるでしょう。でも、慣れてしまえば窮屈さは感じません。むしろ、自分と被写体の間にある「あと一歩踏み込めなかった距離」を、静かに埋めてくれるような感覚が心地よいのです。
画角を埋めるだけなら、確かにタンバールじゃなくてもいい。 それでもこのレンズを選ぶのは、目の前の景色をただ鮮明に切り取る以上の何かを求めているからかも知れません。 秋の空気や、光の温度といった、目には見えにくい「気配」のようなものを残したくて、僕はあえてこのレンズを手に取っているのだと思います。
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