
普段、雲を積極的に撮ることは少ないのですが、時折、ただその形が美しいという理由だけで、無意識にシャッターを切ってしまうことがあります。この写真も、そんな一枚でした。きっと、空を流れるその独特のカーブに強く惹かれたのでしょう。ただ、その後はすっかり忘れていましたが。
最近、写真展の準備で古いデータを見返していたところ、この写真が再び目に留まりました。モニターで見て再び、その雲の描くカーブには惹きつけられたのです。なぜこれほどまでに心地よく、美しいと感じるのだろうか? その答えを探るうちに、ある不思議なパターンの存在を思い出しました。それが**「黄金螺旋」**です。
この黄金螺旋は、自然界の様々な場所に現れると言われ、人間が最も美しいと感じるパターンの一つとされています。巻き貝の殻、ひまわりの種の配列、台風の渦、銀河の形…そして、もしかしたら、この空の雲にも? この螺旋は**「黄金比」(約1:1.618)という、これまた美しいとされる比率をもとに描かれます。そして興味深いことに、この黄金比は「フィボナッチ数列」**(1, 1, 2, 3, 5, 8…と前の2項を足していく数列)の隣り合う数の比が近づいていく値でもあるのです。
試しに写真に重ねてみると、驚いたことに、雲のカーブが螺旋の一部と優美に重なり合っていました。

この黄金比や黄金螺旋が持つ魅力は、フィボナッチの時代よりもずっと昔、古代ギリシャの人々をも惹きつけていました。彼らがこの比率にたどり着いたのは、純粋な幾何学、特に正五角形の研究を通してでした。例えば、正五角形の対角線を引くと、その線分が互いを黄金比に分割するという性質があるのです。自然界に存在する調和のとれた比率を、彼らは数学的に見出し、定義づけました。それはまさに、世界の成り立ちの秘密に触れるような、深遠な探求だったのでしょう。
コンピューターもAIもない時代、古代ギリシャの数学者たちは、自身の観察眼と思考力だけで、このような宇宙の法則とも言えるようなパターンを発見しました。現代の私たちが当たり前に使うツールがないからこそ、彼らは自らの脳を最大限に活用し、想像し、計算し、世界の真理を探求していたのかもしれません。その偉業に思いを馳せると、人間の知性の持つ広大さに改めて驚かされます。
そして、ふと思います。私が理由もなくあの雲のカーブに強く惹かれたのも、分析する以前に、人間が本能的に持っている調和や美しさへの感覚が、無意識のうちに反応したからなのかもしれない、と。
空を見上げる。そこに黄金螺旋を見つけた時、それは人が暮らす日常の世界と自然界が繋がったように感じる瞬間だ。
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